富名哲也監督、プロデューサー・畠中美奈、片岡千之助が登壇!映画『わたくしどもは。』外国特派員協会で記者会見
映画『わたくしどもは。』(5月31日公開)の監督を努めた富名哲也とプロデューサーの畠中美奈、そして歌舞伎界のホープで本作に出演する片岡千之助が、5月21日(火) 外国特派協会にて記者会見を行いました。
本編上映後、興奮冷めやらぬ会場に登場した3名は大きな拍手で迎えられた。はじめに英国ロンドン・フィルム・スクールに通っていた富名監督は流暢な英語で「本日はFCCJにお招きくださり、また皆さまご来場いただき誠にありがとうございます。今回の記者会見を受けて、何かメッセージ等受け取っていただけましたら幸いです」と挨拶。プロデューサーの畠中美奈も「今回はお招きいただきありがとうございます」、そして片岡千之助も「皆様ご来場くださり、また作品をご覧くださりありがとうございます。このような場をとても光栄に思います」と英語で挨拶した。
冒頭、司会のキャレン・セバンズより富名監督へ「最初にこの作品の着想について伺えますか」と問われると、監督は「長編一作目である、『ブルー・ウインド・ブローズ』(18年)を佐渡島で撮影したのですが、金山の近くを通りかかった時に“無宿人の墓”という看板があったのに興味を持って、すぐに調べ、その歴史を知って、この時ふと映画にしたいなと思ったのがきっかけです」と回答。続けて、「江戸時代に内地から戸籍を外されたひとたちが約2,000人ほど、金山で過酷な労働を強いられて数年で亡くなったということを知って、その場所にある魂というか、存在があるような感じがして、直接その人たちの物語ということではなかったのですが、その彷徨える魂や存在についての映画を作ってみたいと思った」と答えた。
また、「今回の錚々たる面々のキャスティングの経緯について教えてください」と質問を受けた畠中は「ありがたいことに、夫婦で映画を作っておりますが、こういう人に演じてほしいということでお声がけさせていただいた方々に出演いただけた。台本に合わせた形で選ばせていただきました」付け加えて富名監督も「もちろん台本があってこの役者さんと働きたいなということを実際は難しいとは思いながらも、夢想します。妻の畠中にすごくガッツがあって、飛び込んでいってなんとか説得したのが実状です。よくキャスティングできたなと私自身もびっくりしています」
片岡も「(公開順は前後しますが)今回が初めてお芝居をされた長編映画であったいうことで、日本においてはマイノリティという立場を代表して、非常に重要な役を演じられたわけですが、しかも佐渡島までへ行き、その体験はいかがでしたでしょうか」という質問を受けて、「初めての映画の作品作りで、僕の役の透という男の子はLGBTQのひとつである悩みを抱える少年です。今の時代からすると、彼の選んだ道は世界的には難しいというか可哀想な部分が強いのですが、彼自身はある意味、(この作品の中では)唯一と言っていい「生きている」特殊な役柄。その中で生きている世界で、死へ向かう途中でもいろいろな思いがあり、でも死んだ人たちからはこちらにはくるなと言われる。ある意味で生と死の狭間に彼もいる。いい意味で浮いているというか、特殊な役柄を演じさせていただけたなと思っています。また佐渡島という島の雰囲気は日本の中でも唯一無二と言っていいほど、特殊なものが宿っている島だと思っているので、この映画の世界観ととてもマッチしていたと思います」
外国特派員協会員 Q&A
Q. この作品を観て、是枝監督の『ワンダフルライフ』(99年)という作品を思い出しました。この作品に対しての何かしらのリアクションだったのか、「僕だったらあの世、この世をこのように描きたい」など思って作りに至ったのか教えてください。
富名監督:『ワンダフルライフ』は見ていて、好きな映画の一つです。ただ、記憶を無くしたという設定にしたのは、その作品に対抗しようと思ったわけではなく、物語やキャラクターに依存しないというか、あんまりそれに頼らないでそこの画面に、映画のスクリーンに役者の人たちが存在したという画を撮りたかったんですね。変にその人のキャラクターを作ったり、人間性を持つっていうよりも、人間という存在がそこにいたというのを撮りたかった。
Q. 冒頭のシーンでは太宰治の心中のイメージが浮かんできたのですが、ストーリーが進んでいくうちに死んでいるのか死んでいないのか難しい状況で、モヤモヤを感じていました。それは監督の意図なのか伺いたいです。片岡さんにもお伺いしたいのですが、非常に難しい映画だと思うのですが、実際に演じてる時に監督から何らかの説明があったのか、現場はどのように進んでいったのか教えてください。
富名監督:そうですね、自分の中で生きている人と死んでいる人はすごく隣り合わせで、死んだら別の世界にいるというよりは、死んだ人もそばにいて、ただ見えていないだけでそこにいるんだろうなって思っていて、それを今回の映画にした落とし込んだんですけど。何かプロットが先行するような、展開が早いようなふうにはしたくないなと思っていました。じわっとゆっくりした展開にはなっている。それが成功したかは皆さんの反応からしかわからないのですが、意図したものでした。
片岡:僕自身は最初に台本を見た時に、この人死ぬんだなという解釈をしたけど、後々の解釈で言うと、生きていた、と言うことになるのかなと思います。現場では監督に質問したのですが、その時には確定的なことは決まっていなくて。自分の中でも生きているか死んでいるかわからなくても、観る側の観客の人たちに委ねようという意識で臨んでいましたね。
Q. あの色合いといい、撮影が非常に美しいと思いました。画角についてもスタンダードサイズで撮られておりますが、今回このような撮影の手段を取られた理由と、撮影監督の仕事について教えてください。
富名監督:まず、4:3のスタンダードサイズで撮った理由は、佐渡金山の、山の形を尊重したということですかね。ワイドスコープで撮ると両脇に余白が出過ぎるので、スペースをどう埋めようと考えると、スタンダードしかないと思いました。佐渡島の風景へカメラを置いて綺麗な視線を探しました。いろんな角度からいろんなショットを撮っている映画ではないので、ワンショットをじっくり見せるという判断でいったので、カメラマンは大変だったと思いますが頑張ってくれたと思います。
Q. 全ての演技者の長い言葉のない表情だけの演技がすごく印象的で、田中泯さんの天窓に向かって描く演技も素晴らしかった。全ての出演者達がセリフなしでいろんな表情を見せていたが監督の指導があったのでしょうか。それとも、私たちがいろんなことを想像することと同じように演技者の方達もいろんなことを考えて演じられていたのでしょうか。
富名監督:田中泯さんに関しては、台本上のト書きでは「天窓の下で佇んでいる」くらいしか書いていなかったと思います。自分から特に言うことはなく、そのト書きから泯さんが受け取ってくれて、その場所、空気を感じて演じて、あの演技になっている。基本的には自分は演技指導をしたつもりは全くないですが、数少ないセリフだったり、ト書きの雰囲気だったり、場所の空気感だったりを感じて、記憶のない設定が自分の過去や人間性を出すチャンスがない設定にしているので、その設定を汲み取ってくれ、結果あの演技になっているのだと思います。
Q. 片岡さんにお伺いします。監督がおっしゃられたように、細かい演技指導はされなかったのでしょうか。
片岡:はい!YES!(笑)僕自身も難しい役ではありましたが、自分なりの解釈で素直にその感情を汲み取って、透の心になって、台詞のない表情であったり、動きであったり、踊りを表現させていただきました。監督とのコミュニケーションで、お互いに話し合って、作らせていただきました。
Q. 夫婦で働くことの喜び、そして難しいことはどういったところでしょうか。
畠中:寝ても覚めても映画の話ができることはとても素晴らしいことだと思っています。二人で常に一緒にいて、いつも映画の中で生きているような。自分たちが生活しているのか、映画の中に私たちまで入っているのか、それがわからなくなるのが一つ悩みかもしれません。
「生まれ変わったら、今度こそ、一緒になろうね」。名前も、過去も覚えていない女(小松)の目が覚める。
舞台は佐渡島。鉱山で清掃の仕事をするキイ(大竹)は施設内で倒れている彼女を発見し、家へ連れて帰る。女は、キイと暮らす少女たちにミドリと名付けられる。キイは館長(田中)の許可を貰い、ミドリも清掃の職を得る。ミドリは猫の気配に導かれ、構内で暮らす男、アオ(松田)と出会う。彼もまた、過去の記憶がないという。言葉を重ねながら、ふたりは何かに導かれるように、寺の山門で待ち合わせては時を過ごすようになる。そんなある日、アオとの親密さを漂わせるムラサキ(石橋)と遭遇し、ミドリは心乱される。
作品情報
『わたくしどもは。』
5月31日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
小松菜奈 松田龍平
片岡千之助 石橋静河 内田也哉子 森山開次 辰巳満次郎/田中泯
大竹しのぶ
野田洋次郎
監督・脚本・編集:富名哲也
企画・プロデュース・キャスティング:畠中美奈
撮影:宮津将
照明:渡辺隆
サウンドデザイン:鶴巻仁
衣裳:田中洋介
ヘアメイク:楮山理恵
特殊メイクアップ監修:林伸太郎
サウンドエディター:松浦大樹
助監督:浅井一仁
制作担当:呉羽文彦
宣伝プロデューサー:伊藤敦子
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