舞台『組曲虐殺』稽古場レポート&ダイジェスト映像公開!

井上ひさしの没後10年というメモリアルイヤーを記念し、2019年10月に上演される『組曲虐殺』の稽古場の様子が届けられた。

左より)高畑淳子、上白石萌音、井上芳雄 提供:ホリプロ

ロの字に組んだ長テーブルの一辺に栗山と演出助手が座り、それに向かい合う辺に井上と上白石、神野と高畑、そして山本と土屋が左右の辺に座って、本読みが始まった。

全員で歌う場面から始まるこの作品。明るく響く曲調は思わず聴いている方もリズムを取ってしまう楽しさがあるが、ユーモアに溢れた歌詞の中には当時の世相がにじみ出ていて、どこか影を感じさせる。井上は初演から多喜二役を演じてきただけあって、歌声は堂々たるもの。多喜二としての強い意志を感じさせる力のある歌声が全体をけん引していた。そして今回初めて出演する上白石のキラキラとした歌声がバランスよく溶け込み、神野と高畑、山本と土屋と共に、歌の柱の一つをしっかりと担っていた。

特高刑事に目をつけられる多喜二は、当初、無言で抵抗するも、ある事から思わず本音を吐露する。本読みという段階でありながらも苦悶した表情でぽつり、ぽつりと台詞を口にする井上が、ある場面から一転、濁流のように本音をぶちまけ、いっそ我が想いを皆に聴いてもらいたいとばかりに高らかに歌い上げる「伏せ字ソング」。書いても書いても当局の検閲で言いたい事を墨でつぶされる怒りを、言葉の一つ一つに強い説得力を込めてナイフのように胸に突き刺し、また、豊多摩刑務所の独房で歌う「独房からのラヴソング」では、貧困にあえぐ人々への想いと、無力な自分への怒りや悔しさ、悲哀を井上は喉の奥から絞り出すように歌っていた。初演、再演と多喜二役を演じてきた井上は、7年前の再演からさらに深みを増していたように感じられた。

井上芳雄 提供:ホリプロ

多喜二を心配して地元から出てきた許嫁の瀧子。地元から出てきたばかりで、まだ何にも染まっていないが、多喜二への想いだけでここまで来た瀧子役を、上白石は“おぼこさ”と、それでいて多喜二の傍にいるふじ子への素直な嫉妬心と共にイキイキと表現。井上と共に歌う場面では、ミュージカル『ナイツ・テイル』でも見せた相性の良さを垣間見せる美しいものとなっていた。

上白石萌音 提供:ホリプロ

ふじ子役の神野は、一見、控えめでつつましやかな女性を装っているが、その表情の奥では全方位的にアンテナを張り巡らし、多喜二の目となり耳となって、いざという時に多喜二が素早く動けるように立ち回る女戦士ぶりを表情豊かに演じていた。

神野三鈴 提供:ホリプロ

一方、多喜二の姉チマを演じる高畑の存在は、そこにいるだけで、思わず笑みがこぼれるくらいユーモアたっぷり。場を和ませる小樽弁を巧みに操り、多喜二を陰ひなたに支えようとする頼もしい姉の姿を演じる。

高畑淳子 提供:ホリプロ

そして、多喜二の行方を追ってきた特高刑事役古橋と山本を演じる山本と土屋。二人のやり取りは場の緊張感を高めるが、これまた、どこか笑いを誘うものでもあった。土屋はマジメに職務を遂行しようとする山本役を、山本はあえて隙を見せながら執拗に相手を攻めていく古橋役を演じているのだが、二人の台詞の応酬の間、井上、上白石、神野、高畑が笑いをこらえながら見守っているが、時にはたまらず吹き出してしまう事もあった。

左より)山本龍二、土屋佑壱 提供:ホリプロ

改めて今回披露されたのは本読みであるが、いつでも立ち稽古に入れるくらいの熱い芝居を見せた後、栗山が口を開いた。

栗山民也 提供:ホリプロ

「●ページの△はこう~」と具体的に指導が入る箇所もあったが、その合間合間に栗山がこの作品を通して伝えたい事を口にする。日々起きている事件などを例に挙げながら、この物語は過去の1ページではなく、今の日本でも言論の弾圧や粛清といった悲劇が繰り返されかねない危機感を語る栗山。その言葉にキャストはもちろんスタッフも皆耳を傾けていた。初演から携わる井上たちと、今回初めて関わる上白石らの体感が同じレベルに到達するように皆を導く栗山と、真摯に受け止めるキャストたちの戦いは始まったばかりだ。

左より)上白石萌音、井上芳雄 提供:ホリプロ

井上芳雄 コメント
初演の時は、稽古のたびに新しい台本が届き、一生懸命やっていただけなので、その時はキャリアが浅かったこともありますが、冷静にこれがどういう作品なのかというのはわかっていませんでした。
でも今回、7年ぶりに本読みをしてみて、改めて凄い本だな、と思いました。本当に振り幅が広く、容易い作品ではありません。毎回、身体ごとぶつかっていかないと太刀打ちできない、小手先ではできない。「もっとやりようがあるんじゃないか、深さとか広さとかもっともっとあるはずだ」って思いながら演じていたのを、本読みをしながら思い出しました。今回もそうなると思います。

(上白石)萌音ちゃんのことは良く知っているので、瀧子役にぴったりだと思っていましたが、本当に思っていた通りというか、思っていた以上に素敵な瀧ちゃんでした。これから立ち稽古をしていくなかで、萌音ちゃんが演じる瀧ちゃんにいろいろ刺激を受けて、僕の多喜二もまた新しい気持ちが生まれてくるんだろうな、と感じさせてくれる瀧ちゃんです。

10年前にはそう思わなかったのですが、今日本読みをしながら「今のことを書いているのか?」と思えるくらい、切実に今の時代と内容がリンクしていて、怖いと思いました。ただ、「井上ひさしは予言者だったね」ということだけではなく、多喜二たちが僕たちに繋いでくれた希望を自分たちはどうやって引き継いで行くのか、綱を渡して行くのかっていうことを考えるという本だと思うんです。
演じる我々自身が本を読むだけで毎回泣いたり笑ったりするわけですから、お客様には、本当にたくさんのものを持って帰っていただけるのではないでしょうか。

上白石萌音 コメント
私が演じる瀧子は、「不幸を背負うために生まれたような子」と言われるセリフがあるくらい、若い時から大変な思いをしてきた子なのですが、にも関わらず、というよりはむしろ、だからこそ、本人はたくましく、強い心を持っている子です。多喜二さんへの愛が本当にまっすぐで、すごく純粋に多喜二さんを愛している役だと思います。そのまっすぐさ、強さを、受け取っていただけるように、瀧子を演じたいです。

読み合わせの間、隣にいる井上芳雄さんの熱が伝わってきました。芳雄さんの息遣いやひりひりする声を隣で聞いているだけで、形容しがたい気持ちになります。まさに身体を使って小林多喜二を体現されていて、初演から今回の再々演までの間、芳雄さんの中にはずっと
多喜二がいたんだな、というのを感じて感激しています。そんな多喜二さんに
まっすぐ向き合えるように、私も頑張らねばと思っているところです。

組曲虐殺には、本当に「今」、受け取っていただきたいメッセージがつまっています。どんな境遇の中でも明るく強く生きた人たちの姿は、観ていただく皆さんそれぞれに届くものがあると思います。皆さんのもとに、井上ひさし先生の思い、小林多喜二の思いが届くように一生懸命頑張りますので、皆さん、ぜひ劇場にお越しください。

栗山民也 コメント
わたしは、井上さんから2つのものをいただきました。一つは、「怒ること」。今、目の前で起こっていることに対し、しっかりと向き合う。もう一つは、人間は生まれながらに涙の谷を渡っている、だからこそ「笑うこと」を自分たち自らで作りださなければならないと。この作品は、その「怒り」と「笑い」が妙なカタチで混在し、絡み合っている不条理な作品です。ドタバタがあったと思ったら、突然その中に極めてシリアスな時間が現れる。
なぜこういう芝居になったのかと、ずっと考えています。小林多喜二は、特高により築地署に連行され、3時間もの残虐な拷問を受け死んでいくのだけれど、その3時間、彼は自分が思い信じる思想を決して曲げなかった。曲げなかったから虐殺に至ったわけですが、それが井上さんのペンとしっかりとつながっている。だから、全身でぶつかって書かれた戯曲のせりふの一言一言が、とても痛いのです。3時間の拷問に耐えながら、きっと多喜二は今までのいい思い出だけを頭の中に描いていたんじゃないか。それを井上さんは「かけがえのない光景」として、この芝居の根っこにしたんじゃないか。そんな現実の痛みと、現実の願いのつまった芝居です。その事実こそが、不条理なのです。
日本はこのままいくと、どんどんものが言えない時代になっていくでしょう、すでにそうなっているとも思えるが。またこの芝居が必要とされる時代がきてしまったことを強く感じながら、皆で愉快で厳しい作品にしましょう。

取材・文・撮影/小村早希

舞台『組曲虐殺』2019 本読み稽古 ダイジェスト映像【前編】

舞台『組曲虐殺』2019 本読み稽古 ダイジェスト映像【後編】

 

<公演概要>

こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』

作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:井上芳雄 上白石萌音 神野三鈴 土屋佑壱 山本龍二 高畑淳子
音楽・演奏:小曽根 真

[東京公演]
公演日:2019年10月6日(日)~10月27日(日)
会場:天王洲 銀河劇場
※福岡・大阪・松本・富山・名古屋公演あり

公演詳細:https://horipro-stage.jp/stage/kumikyoku2019/
こまつ座HP:http://www.komatsuza.co.jp/index.html
公式ツイッターアカウント:@KUMIKYOKU2019

Tokyo Now Author